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第1回 山田賞金王決定戦競争

第1回 山田賞金王決定戦競争


「山田賞金王決定戦競争」は年に1度、これは面白い、気になった、これから来るだろうと思うものを6つ紹介するページです。人物だったり、作品だったり、イベントだったり選定ジャンルは特に決まっていません。

6号艇 「シュルレアリスムと絵画-ダリ、エルンストと日本の「シュール」


6号艇はポーラ美術館で開催された「シュルレアリスムと絵画-ダリ、エルンストと日本の「シュール」」。

 

シュルレアリスムは西洋で発展した芸術運動で、当時日本にもシュルレアリスムは美術界に影響を与えて「超現実主義」という訳語を与えられ、最新の前衛芸術スタイルとして一大旋風を巻き起こしました。

 

ところが、ほかの国と違って日本の美術家たちは、西洋のシュルレアリストと直接交流を持たず、つまり指導者のアンドレ・ブルトンの理論や目的を離れ、独自の解釈とスタイルで発展しました。

 

スタイルが微妙に異なるので、これまでのシュルレアリスム展といえば、「西洋のシュルレアリスム」「日本のシュルレアリスム」というふうに分離した展覧会ばかりだったのですが、本来、横並びになるはずがない両方のシュルレアリスム作品を同時に展示というのが画期的あり、また、これこそがシュルレアリスムの本質であると思いました。

 

さらに、つげ義春の「ねじ式」やウルトラマンの造形など美術以外のメディアで発生した「シュール」、束芋の映像インスタレーション作品など現代美術内で見られるシュルレアリスム作品も並列して展示。これは、世界美術史の観点から見ても画期的なシュルレアリスム展ではないだろうか。

 

展示もよかったですが、その後の巖谷國士先生の講演がよかった。巖谷先生と同じく私もそもそも美術畑の人ではないから、頷きやすかったのかもしれない。シュルレアリスムは美術史の中で語られがちですが、実はもともと文学運動からはじまって、それが漫画、音楽、政治運動、ダンス、ファッションなどあらゆるシーンに利用されたもので「美術」ではないのです。

 

で、思ったのは私は美術や漫画やサブカルチャーやアングラやガロが好きというよりもシュルレアリスムが好きで美術や漫画やサブカルチャーに足を踏み入れてるだけというのを再認識させられました。

 

こういう近代美術、現代美術、西洋、日本、男性、女性、漫画、映像、特撮などを横断してシュルレアリスムでぶったきる展示は今後増えるような気がします。


5号艇 富川光義


5号艇は富川光義さんです。富川さんは日本の画家です。画面びっしりに緻密に描かれた精子画をはじめて見たときに一発でもっていかれました。精子点描画というのでしょうか。

 

富川さんは、これまで特に美術教育を受けたこともなく、高校を卒業後、仕事の合間に独学で趣味でずっと制作していたようです。なのでアウトサイダー・アートに属しますが、技術レベルは高いと思います。今年の第3回 2019年のアート・オリンピアで優秀賞を受賞もしました。

 

年齢は44歳でほかの同世代の美術家と比べるとスタートが遅く、キャリアはほとんどありませんが、そんな数少ないキャリアの中でも面白いのは、ニューヨークでバンクシーが監督した映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』でストリートアートデビューしたミスター・ブレインウォッシュと展示をしていることでしょう。制作時はアダルトビデオを大音量で流しながら、精子を描いているようです

 

村上隆のカイカイキキのスタッフの人にもちらっと声をかけてもらっていたこともあり、誰も見ていない知らない場所から突如アート・シーンで活躍する可能性もあります。下は近作のウォーホルのポップアート風精子肖像画シリーズ

スティーブ・ジョブズ(山田所蔵)
スティーブ・ジョブズ(山田所蔵)
マリリン・モンロー
マリリン・モンロー

4号艇 Zihling(ヅゥリーン)★


4号艇はZihling(ヅゥリーン)さんです。Zihlingさんは台湾のロリータ系イラストレーターです。私のサイトでは数年前から書いてますが、知らない人も多く、たくさんいる台湾の芸術家の代表として再度紹介します。

 

Zihlingさんは、数年前からデザインフェスタやグループ展で1年に1〜2度くらい日本で作品を発表していますが、今のところ、それほど注目されている感じではないです。

 

理由としては、人口や市場の大きい漫画業界と違って、市場が小さく、かつ市場が小さいわりにライバルが多く競争が激しいからでしょう。さらに、外国人の排他性が高い日本の耽美幻想系の美術やサブカルチャー界隈で活動しているというのが大きな要因の1つかなあと思います。

 

耽美幻想界隈だけでなく美術業界でもそうですが、無名の外国人芸術家が日本のこの分野で戦うのは極めて不利ではないかなあと思います。まだ、漫画やインターネットやファッションやポップカルチャーのほうが、外国人芸術家に対する寛容性は高いと思います。

 

そういう状況のため、Zihlingさんが今後伸びるには、なにかしら既存の業界や界隈を無視して、多方向(マルチ)で独自のアプローチで粘り強く表現活動すると、大化けする可能性はあると思います。2022年12月には日本のgallery hydrangeaで個展も決まってもいますし、まだまだ眼が離せません。要注意★。

 

下の写真は私が所蔵している作品。2019年の夏にマンガシックさんの個展で展示された作品です。

3号艇 カルチャー&タトゥーマガジン『SUMI』


見ての通りタトゥー誌なんですが、今までのタトゥー誌とちがってロハス系の雑誌と見舞う違うほど表紙がやたらとさわやか。でも、腕には堂々とタトゥーが入っていて、服の襟元や袖口からチラ見せとするとかでもなく、モロに眼に入ってくる。この表紙のインパクトは衝撃でした。

 

巻頭インタビューが2016年に初めてタトゥーを入れた菊池成孔さんなんですが、今後の日本は外国人観光客や労働者の受け入れは避けられず、それにともない刺青入った外国人を締め出すわけにはいけなくなる。それで、「だんだん緩和される」のではなく、おそらくボージョレ・ヌーヴォー解禁のように「一挙にゲートが開く」だろうと話しています。そういう「一挙にゲートが開く」という部分が表紙に反映されているように思えました。

 

コンテンツも新鮮です。今までのタトゥー誌というとパンク、ドラッグ、エロス、身体改造といったアンダーグラウンドなコンテンツが定番だったんですが、「SUMI」はラーメン、銭湯、バーバー、ティースタンドなどごく一般庶民で日常的に利用するものばかり。ただし、紹介される店舗の経営者やレビュアー、アーティストなどは全員タトゥーが入っている。この「日常性と非日常性」「エンタテイメントと暴力性」が同居しているのが面白い。

まだ1号しか出ておらず、今後どうなっていくのかわかりませんが、この号だけでも東京オリンピック以後の日本社会を予言するような本になっているのではないかと思います。タコシェで購入できます。

2号艇 リトルサンダー(門小雷)◎


2号艇はリトルサンダー(門小雷)さんの「WAKAME AND WAVE AND INFINITY」です。

 

彼女は香港の漫画家、イラストレーターで、今年(2019年)には日本で彼女のイラストレーション集『SISTERHOOD LITTLE THUNDER ART BOOK』」が玄光社から発売され、また同時期に日本で彼女の個展が開催され話題になりました。現在はおもにイラスト業界から注目を集めており、翔泳社が発行している『ILLUSTRATION 2020』でも彼女は大きく紹介され、インタビューも掲載されています。

 

それで、ここで私が紹介している本『WAKAME AND WAVE AND INFINITY』は、今年の夏に香港で発売された彼女のインディーズコミック作品です。中国語版と英語版が存在しています。私が持っているのは英語版で、表紙が頭に花が咲いた少女のアップの絵になっています。現在はポポタムで中国語版が購入できます。

 

内容はWAKAMEという女の子とWAVEという男の子の恋愛話なんですが、全体的に非常にシュルレアリスティックな描写で物語が進行します。魚、ワカメ、男女恋愛、花、父、母、暴力、監禁、逃走などのイメージ

 

絵がうまいので「ガロ」より上のサブカル漫画誌に掲載すると、すごく人気が出そうな感じです。ガロ以外の漫画作品は、私は本当にあまりわからないのですが(諸星大二郎や岡崎京子とかも読んだことない)、AKIRAとか五十嵐大介とかの作品とか、そういう感じのニューウェーブ的な作品が好きそうな人に好まれそうです。これは、本命◎ですね。

 


で、彼女は日本ではおもに「イラストレーター」として扱われているのですが、実はもともと漫画家で、ずっと中断していて、今年発売した「WAKAME AND WAVE AND INFINITY」を期に「漫画家」として再出発を誓ってます。非常に彼女にとってターニングポイント的な作品にもなります。本書に収録されていた彼女の解説を翻訳してみました。

 

「私の最初の商業マンガ作品は20年前に出版された。しかし、最近できた新しいファンの中にはネット上に公開しているイラストレーションを通じて知った人もたくさんいます。

 

なので、この新作を発表したとき、(漫画家であることを知らない)新しいファンは「おお、ついにマンガを描きましたか!」という反応がありました

 

ここ6年間、漫画を描いていなかった私は恥ずかしく思った。もう漫画家という肩書を使おうと思わなかった。漫画を作るには脚本やストーリーボードも作る必要があるが、絵を描く途中のこれらの作業ははいつも苦手だった。描き終えたイラストレーションはまだ一点の作品として成立しますが、不完全なマンガは作品として成立しません。

 

石ノ森章太郎先生は「どんなに一生懸命マンガを描いても、完成できなかったり、進歩が見られないなら、本当に漫画家になるかどうか考え直したほうがいい、もしくは別の方法を探しなさいい」といいました。

 

この6年間、漫画を描くことに自身が持てませんでした。それで、たくさんのドローイングイラストレーションを描くことに楽しみを感じました。ドローイングイラストレーションであれば商業性のあるオシャレな作品を完成させるには1日しかかかりません。

 

漫画を描くために部屋に何ヶ月も引きこもるかわりに、私は毎日の生活を楽しみ、友達と遊ぶ時間をが持てるようになりました。

 

しかし、血と汗で作られた多くのエネルギーが心に深く影響を与えたのはいつも最良の漫画だけだった。それは電撃のような衝撃

 

衝撃的でぼうっとする漫画を作るにはまだ長い道のりがあります。時間を無駄に浪費している暇はありません。もう一度最初から漫画家を始めます。 「WAKAME AND WAVE AND INFINITY」は私の再出発点となる漫画作品です。残りの人生を熱心に漫画を描きたいと思います。

 

 

2019年7月20日

1号艇 ソノダノアともくれん ▲


『第1回 山田賞金王決定戦競争』の1号艇は、ソノダノアさんの『ケンカじょうとういつでもそばに』(KADOKAWA)です。内容は「もくれん」という11歳の少女写真集。

 

もくれんは著者ソノダノアさんの娘で、母親が娘の日常の断片を切り取って写真がアップしていたのですね。親が子どもを撮影したアップするようなTwitterアカウントはたくさんあるのですが、中でももくれんを初めてみたときは「黒いなあ」という印象が強かったのですね。それが、一番の理由でしょうか。「ん〜イイねぇ」という感想です。

 

そして目付きがいいですね。これは、お母さんの内面がかなり娘に反映されている気がします。なにかただならぬ因果を感じますね。そのため、今回は「ソノダノアともくれん」という二人乗りです。もし、彼女が黒くなくて色白でキラキラした眼の素敵な笑顔の少女だったら私は関心はなかったでしょう。

 

帯の「生活なんてやめらんねぇ」「生活をやめたら死ぬんだよ!」は根本敬先生の「でも、やるんだよ!」よ「タケオの世界」の花代を想起させますね。

 

写真とは別にムービー版みたいなのがYouTubeにあるんですけど、これ最初の2分はお母さんの話なんですよね、写真集とちがってこれもいいです。

あと、川島小鳥さんの『未来ちゃん』をどこか想起するところがあるなあと思いました。

 

活動キャリアはTwitterのZINEぐらいで特になく、彼女自身も先がまったく読めないため大穴の1つだと思います。

 

ボートレースは基本的に1コースの選手が一番有利なスポーツですが、山田賞金王決定戦競争では1号艇は「推し」だが「穴」▲な存在を紹介します。