【インタビュー】ねこぢる&山野一インタビュー2「二人の原風景」

ねこぢる&山野一インタビュー2

『ガロ』で好評連載だった「ねこぢるうどん」。作者であるねこぢること前山野夫人と山野一氏のインタビュー。山野氏の「ねこぢるうどん」への関わり方や発想の源、そして山野漫画の基盤を語る。

二人の原風景


(出典元:ガロ1992年 6月号)

 -よく背景に描かれている、電信柱のある一本道や、工場や石油タンクなんかはお二人が子どもの頃に見た風景なんですか。

 

山野:原風景なんて立派なものじゃないですけど(笑)、石油タンクは僕の方ですね、四日市だったんで。ひどい所でしたよ(笑)、ひたすらタンクだのパイプだの入り乱れてるような。毎日川の色が変わるんですよ、繊維の織物工事があって、その日に染める色で川の色が決まっちゃうんです。緑色の川とか、赤い川とか、日野日出志さんの漫画のような世界でしたね。

 

-畸形の魚が上がったりしたんですか。

 

山野:いたでしょうね、釣りとかしなかったで分からなかったけど(笑)。コンビナートからかなり離れた海水浴場でも、タールの様なものが浮いているんです。泳いでいるとそれが肌に付いたりして、ギトギトでちょっとやそっとでは取れないんですよ。僕の親父は公害をたれながす方だったんです、XX化成という所につとめていて、そこの環境課に居たんですよ。そこへ"団結"なんて書いてあるハチマキを絞めた住人が山のように訪れると、曖昧な笑いを浮かべながらお茶を濁すような役目だったんです(笑)。それで、僕の小学校の担任が、これが日教組の豚みたいなオールドミスで、ひどい喘息持ちなんですよ。こいつが公害反対住民同盟の運動員で、まだわけもわからない子どもに企業がいかにひどい犯罪を犯しているかということを述べたてるんですよ。ゲホゲホあさましいほどせきして脂汗ダラダラ流しながら・・・。だから子どもながらに教室で肩身が狭いったらない(笑)。それで、親父がローカルのTVに出てたりするのを観て、当時は純真な子どもでしたからイヤなものをかんじましたけど、今はなんとも思わないですね。

 

-一番先頭にたって、交渉を受ける立場だったんですか。

 

山野:そうですね。コンビナート関係の従業員とかは、実際喘息を持っていても届け出をするとマズイんですよ。そこに勤めている人だけが行く喘息の診療所があって、そこから至近距離に直径が10m以上で、曇りの日には先端が雲に隠れるような巨大な煙突があるんです。先からモウモウと煙が出ているのを見て、ここでは雲を製造しているのかと思いましたね(笑)。幼稚園に入る前くらいのときでしたが。

 

-メルヘンですね。

 

山野:嫌なメルヘンですけどね(笑)。しばらくしてから。あまり空気が悪いんで郊外へ引っ越しましたけど。コンビナートのすぐ近くだとひどいみたいで、体育館の窓ガラスが二重になっていて、エアクリーナーをかけないと子どもが運動できないんです。表に出て「ワー」なんて走ると、バッタリ倒れたりするんですよ(笑)。走るとイヤな空気を思い切り吸い込みますからね 

-ねこぢるさんの子どもの頃の環境は、どんなところでしたか。

 

山野:普通のところだよね。埼玉県の住宅地みたいなところで、近くに団地があって、何でこんな所に住んでるんだろうと思ったって言ってたよね(笑)。

 

ねこぢる:どうしてこういうところに人が住んでるのか理解できなかった。自分は普通の一軒家に住んでたんですけど、近くに公団住宅みたいな二階建ての建物がいっぱいならんでいる、迷路のような団地があったんです。団地って必ず公園が付いてますよね。それが楽しくていつもそこで遊んでたんですけど、お父さんに、自分もこういうところに住みたいと言ったら、えらく怒られました。

 

-漫画のなかで、お父さんが無職で焼酎を飲んでゴロゴロしているという設定は、どこから来たんですか。

 

山野:僕らの家は、普通の家庭だったんですが、ねこぢるが小学校の頃、そういう家庭の子の家に届け物をしたんだっけ。

 

ねこぢる:同じクラスに登校拒否の子がいて、家がすぐ近くだったから、担任に手紙とかを渡しに行くように頼まれて。○○○○子っていうんだけど(笑)、「○○子さーん」て呼んでもアパートのドアの入口の所いるのに、留守番使って出なかったりするんで、凄くイヤだった。仕様がないから手紙を床の上に投げて置いてきたりした(笑)。その子は貧乏のくせに、体だけでかくて、小学5年生のときにみなから「体は中ニ、頭は小ニ」て言われていて(笑)。学校にも、お母さんのワンピースにお父さんの菱形のワンポイントの付いた紺の靴下をはいてくるような子で、皆からバカにされていた。

-そういった変な人には出会う機会が多いんですか。

 

山野:何か呼ぶ物があったんでしょうかね。ねこぢるが新宿駅に立っていたとき、雑踏のずっと向こうにいる浮浪者が、ニコニコしながら手を振っているらしんですよ、どう考えても自分に振っているとしか思えないらしくてね。

 

ねこぢる:働いていたとき、帰りにいつも頭の足りなさそうな人がバス停で後ろに並んでて。

 

山野:2、3mの間を行ったり来たりするのを、繰り返す人がいたんだよね。

 

ねこぢる:そのとき、雨が降ってきたから折り畳み傘を広げようとしたんですけど、傘って音がするとその音に敏感に反応してクルッと180度向きを変える(笑)。

 

山野:直線的な動きをする人なんだよね。勤め先の倉庫の大家さんの息子もおかしかったんだっけ。

 

ねこぢる:パジャマ姿でいきなりドカドカ降りてきて「ラジオが壊れた」とか「誰かが盗聴してる」とか言い出したりして(笑)

 

山野:親が「そんな事していると、また病院に送るぞ」とか言うんだっけ、親の暖かみとか全然感じられませんね、もう厄介者としか思っていない様なかんじだね。

 

ねこぢる:パートのおばさんが「病院にいると、いろいろ覚えてくるのよねぇ」なんて、こっちが聴いてなくても話したくてウズウズしてる感じで話しかけてくるんです。「性の事とか古株の人が教えるらしいのよねぇ」とか、嬉しそうに話してた。

 

-子どもの頃から身近にいたんですか、たとえばきよしちゃんみたいな子どもとか。

 

山野:本当にきよしちゃんという子がいて、体を動かさないと知能が発達しないんで、よく近所の暇なおばさん連中が手伝いにかり出されて、陽気なリズムに合わせて体操してましたけど。