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【異端科学】賀建奎「人類で初めて遺伝子編集された赤ちゃんを作成」

賀建奎 / He Jiankui

人類で初めて遺伝子操作された赤ちゃんを作成


概要


生年月日 1984年生まれ
国籍 中国
職業 生物物理学者
代表的な業績 人類初実験的ゲノム編集赤ちゃんの制作「露露」と「娜娜」

賀建奎(英語:He Jiankui、1984年生まれ)は中国の生物物理学者。中国、深センの南方科技大学生物学部の准教授を務めていた。日本語読みは、が・けんけい。発音はフー・ジェンクェ。

 

テキサス州ライス大学でCRISPRを含むタンパク質の進化に関する博士号を取得した後、カリフォルニア州のスタンフォード大学で博士研究員として遺伝子編集技術(CRISPR/Cas9)を学ぶ。

 

賀建奎は2018年11月に、人類初の遺伝子編集された人間の「露露」と「娜娜」で知られる双子の女の子を作ったことで広く知られるようになった。双子は遺伝子編集によりHIVに耐性を持たせた遺伝子改変胚から生まれたと述べている。

 

2018年11月に発表された「ルル」と「ナナ」は、2018年10月中旬までに誕生しており、当初は科学的に大きな進歩があったと報道されたが、実験のプロセスが精査された結果、人間の遺伝子を編集することは法律で禁止されており非難を受け、2018年11月29日、中国当局は彼の研究活動を停止させた。2019年1月21日、賀建奎はSUSTechから解雇された。

 

賀は法律を破り、書類を偽造し、赤ちゃんの両親に危険性について誤解を与え、十分な安全性テストを行わなかったという。このプロセスは多くの専門家を驚愕させ、「怪物のようだ」、「素人のようだ」、「非常に不愉快だ」と評され、彼は現在刑務所に収監されている。

 

「悪徳科学者」「中国のフランケンシュタイン博士」「狂気の天才」など、さまざまなあだ名が付けられている。 

 

2019年5月、中国の弁護士は、賀建奎が人類で初めて遺伝子編集された人間を作ったことを踏まえ、遺伝子編集技術によってヒトゲノムを操作した者は、その後に生じる好ましくない状況に対して責任を負うという規則の草稿を報告した。

 

2019年12月、MIT Technology Reviewは、未発表の研究原稿の抜粋を含め、これまでの論争の概要を報じた。2019年12月30日、深圳南山区人民法院は賀建奎に3年の禁固刑と300万元の罰金を言い渡した。

 

米『タイム』誌の「2019年最も影響力のある100人」に選出された。

 

2019年、賀の活動に関して世界保健機関はヒトゲノム編集に関するすべての作業を停止するよう呼びかけを行い、この分野の研究を追跡するための世界的な登録に着手した。

 

2019年2月、科学者たちは、双子の赤ちゃんルルとナナがうっかり(おそらく意図的に)脳強化も試みた可能性があると報告している。

 

最新の調査では、ルルとナナは、自然発生したCCR5変異遺伝子とは異なるまったく新しいCCR5遺伝子があった。通常、赤ちゃんは両親から受け継いだ2つの遺伝子を持っているが、それらは均一に編集されていなかった。ナナは誤って1つの特殊な塩基対が追加され、もう1つの塩基対は4つ削除されていた。一方、ルルは15個の塩基対が誤って削除されたコピーと、まったく変化のないコピーを受け継いでいた。

 

これらのCCR5タンパク質はこれまで見たことがなく、どんな機能かもわからない。つまり、賀の実験は新しい突然変異を発明することになったという

重要ポイント

  • 人類で初めて遺伝子編集(デザインした)した人間を作った
  • 中国のフランケンシュタイン博士と呼ばれている
  • 実は失敗しており、未知の遺伝子(突然変異)を作成した
  • 脳強化の実験を秘めていた可能性もある

学歴とキャリア


賀建奎は、1984年に湖南省婁底町新華県で生まれた。2002年から2006年まで中国科学技術大学で学ぶ。2007年にライス大学に入学し、2010年にマイケル・W・ディーム教授の指導の下、物理学・天文学部門で博士号を取得。

 

博士号取得後、ディームのはからいで、スタンフォード大学のスティーブン・クエイクのもとでポスドクとして、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術の研究に従事することになった。

 

2012年に中国政府の「千人計画」に参加するため帰国し、南方科技大学に研究室を開設する。千人計画の一環で、賀は100万元(14万4千ドル)のエンジェル資金を得て、バイオテック会社や投資会社を立ち上げる。

 

2012年に深圳でダイレクト・ゲノミクス社を設立し、クオーク社が発明し、以前にリコスバイオサイエンス社がライセンス供与を受けていたDNAシークエンス装置を開発する。

 

ダイレクト・ゲノミクス社は、深圳市から4,000万元(450万ドル)の補助金を受け、さらに数億元の民間投資を募ったが、2019年に彼はその株式を売却した。ほかにビノミクス・バイオテック社を設立し、がん患者のためのゲノムシーケンスサービスを提供している。

 

中国共産党第19回全国代表大会を記念した番組の中で、中国中央テレビが彼の研究を取り上げ、「第3世代ゲノム編集の創始者」と表現するなど、彼の功績は中国のメディアで広く讃えられている。

 

2018年2月から大学を休学し、ゲノム編集の臨床実験を開始した。2018年11月26日、遺伝子編集された人間の赤ちゃん「ルル」と「ナナ」の誕生を発表する。その3日後の2018年11月29日、中国当局は、彼の研究が「極めて忌まわしい性質のもの」であり、中国の法律に違反しているとして、彼の研究活動のすべてを停止させた

 

2018年12月、彼の研究に関する世論の高まりを受けて、行方不明になる。中国の南部科学技術大学は、彼が拘束されたという広まった噂を否定した。

研究


2010年、ライス大学の賀とマイケル・W・ディームは、CRISPRタンパク質の詳細を記した論文を発表する。この論文は、遺伝子編集ツールとして採用される前のCRISPR/Cas9システムの初期の研究の一部である。

 

2017年、コールド・スプリング・ハーバー研究所で、南方科学技術大学で行ったマウス、サル、そして約300のヒトの胚にCRISPR/Cas9を使用した研究について発表した。

 

2018年8月、賀は中国系アメリカ人の医師张进と会い、「遺伝子医療ツーリズム」に焦点を当てた会社を立ち上げる計画について話し合った。この事業はエリート顧客を対象とし、中国やタイから事業を展開する予定だった。この事業計画は、2018年11月の賀の勾留によって棚上げされた。

 

2019年1月、中国の科学者たちは、5匹の同一のクローン遺伝子編集猿を作ったと発表した。クローン猿は、羊のドリーに使われたのと同じクローン技術のほか、「ルル」と「ナナ」を作る際に賀が使ったとされる遺伝子編集技術CRISPR/Cas9が使われていた。なお、猿のクローンは、いくつかの医学的疾患を研究するために作られたという。

ヒト遺伝子編集実験


2018年11月25日、賀は自分のチームが世界初のゲノム編集された赤ちゃん「ルル」と「ナナ」の作成に成功したことをYouTubeで初めて発表した。双子の女の子は2018年10月中旬までに生まれたという。

 

3日後の11月28日に香港大学で開催された「第2回ヒトゲノム編集に関する国際サミット」で正式に発表した際には、「双子はHIVに対する耐性を持たせた遺伝子組み換え胚から生まれた」と述べている。

 

賀が目指したのは「CCR5遺伝子」を無効にすることだった。この遺伝子が作り出すタンパク質は、AIDSの原因であるHIVウイルスを細胞内に侵入させる入り口になる。

 

このチームは、北京のHIVボランティア団体「Baihualin China League」を通じて、HIV陽性の父親とHIV陰性の母親からなる8組のカップルを募集したという。

 

ゲノム編集は、体外受精、つまり実験室の培養皿で受精する際に実施された。まず精子を「洗浄」して、HIVが潜んでいる可能性がある精液を取り除いた。次に、1個の精子を1個の卵子に注入して、胚を作り出した。その後、胚にゲノム編集ツールが注入された。

 

体外受精の間、CRISPR/Cas9遺伝子編集ツールを用いて、HIV感染に対する抵抗力をもたらすCCR5という遺伝子を変異させたという。人民日報は、この臨床実験について「遺伝子編集技術の疾病予防への応用における歴史的なブレークスルー」と発表した。

 

賀によれば、受精後3日から5日に編集された胚に対して着床前遺伝子診断のプロセスを用い、3〜5個の単一細胞を除去し、編集の状態は確認されたという。両親には、編集された胚と編集されていない胚のどちらを使うかを選択してもらったという。女性は子宮への移植を望んだので、それをしたという。

 

また、賀は香港の会議で、彼の臨床実験の2人目の母親が妊娠初期段階にあると発言した。公式な報告はないが、2019年8月頃に出産が予定されていた。12月30日の裁判所の判決で、3人の遺伝子編集された赤ちゃんがいると言及されたことから、出産が確認された

遺伝子組み換え問題に各界の反応


生命倫理の問題


賀はヒト遺伝子編集臨床実験は、科学界での公開討論なしに行われた。2018年11月25日、アントニオ・リガラドは、同月初めに中国の臨床試験登録機関に投稿された文書をもとに、MITテクノロジー・レビューにこの臨床実験についての記事を掲載したことで、初めて公開された。

 

彼は、妊娠が中絶されたのか、継続されたのかについて、一切のコメントを拒否していた。この記事が掲載された後、YouTubeにアップされた賀のプロモーションビデオで実験の様子が明らかになり、翌日にはAP通信の報道で明らかになった。賀は広報会社にも報道を依頼していたという。

 

臨床実験の存在が公表されると、賀の行為は広く非難された。

 

11月26日には、中国の科学者122人が共同声明を発表し、彼の行為は倫理に反し、狂気に満ちており、「中国科学の世界的な評判と発展に大きな打撃を与える」と述べた。

 

ほかの中国の科学者や研究機関も彼を厳しく批判しており、『Nature』誌の記事では、彼の行為に対する懸念は「中国では特に深刻で、科学者はバイオメディカル研究のパイオニアという評判に疑問がある」と述べている。

 

スタンフォード大学ロースクールの生命倫理学者であるヘンリー・T・グリーリーは、「私はこの実験を明確に非難する」と宣言し、その後、「賀の実験は、驚くべきことに、最初に考えていたよりもさらに悪いものだった」と述べている。

 

ハーバード大学の遺伝学者であるジョージ・チャーチは,実験のいくつかの側面を擁護し,HIVが「公衆衛生上の大きな脅威であり拡大しつつある」ことから,HIV耐性のための遺伝子編集は「正当化できる」と述べている。

 

しかしながら、このプロジェクトの焦点が胚の1つを妊娠実験に使用することだったことに疑問を呈してる。なぜなら病気を回避することよりも、人間のゲノム編集を試すことに主眼を置いていた」ことを示唆していたからであるという。

 

ニューヨーク大学医学部の生命倫理学者であるアーサー・キャプラン氏は、人間の遺伝子を操作することは避けられない運命であり、「デザインされた人間」を生み出すことに対する懸念はあるものの、医学研究者たちはこの技術を病気の予防や治療に利用することに関心があると述べている。

 

カール・ジマーは、賀のヒト遺伝子編集実験に対する反応と、ミトコンドリア置換療法(MRT)をめぐる初期の反応とその後の議論、そして最終的にイギリスでMRTが規制当局によって承認されたことと比較した。

 

当時、この臨床実験がおこなわれる前に機関審査委員会による適切な倫理審査を受けていたかどうかは公表されておらず、参加者が真にインフォームド・コンセントを得ていたかどうかも不明であるのも問題だった。

 

中国医学科学院は、学術誌『ランセット』で「十分な科学的評価がなされていない中で、法令や倫理規範に違反して生殖目的でヒト胚のゲノム編集を行う臨床運用に反対する」と述べ、中国政府が明確に文書化している関連する倫理規定やガイドラインに違反していると賀を非難した。

 

また、「生殖細胞や初期胚のゲノム編集はまだ基礎研究の段階であり、...科学研究機関や研究者は、生殖目的でヒト生殖細胞のゲノム編集の臨床操作実験を行うべきではなく、そのような研究に資金を提供すべきではない」と強調し、「最高の科学的・倫理的基準に従った研究を標準化するために、さらなる運用技術・倫理ガイドラインを早急に策定し、発行する」と述べた。

 

 

2019年、世界保健機関(WHO)は、ゲノム編集に関するすべての作業を停止するよう求めた後、ヒトゲノム編集に関する研究を追跡するための世界的なレジストリを立ち上げた。

 

倫理以外の問題点


賀は、CRISPR/Cas9を使って胚のゲノムを編集したが、特にHIV-1が細胞に侵入する際に使用するタンパク質のコードであるCCR5という遺伝子を対象に編集したと述べている。

 

賀は、普通の人にはほとんどいないHIV-1に対する生来の抵抗力を与える可能性のある遺伝子の特定の変異(CCR5 Δ32)を作り出そうとしていた。(ベルリンの患者のケースに見られるように)。また、天然に生じたCCR5 Δ32変異の効果を模倣する実験も意図していた。

 

CCR5はHIV感染の機序に強く関与している。多くのHIV株が、宿主細胞に入り感染するための最初の段階でCCR5を利用している。 そして、CCR5にはCCR5-Δ32として知られている変異を持つ集団がいる。この突然変異のホモ接合体のキャリアである人々は、CCR5 指向性(従来いわれるところの「マクロファージ指向性」)のHIV-1感染に耐性を持つという。

 

賀は、双子の子どもはヒトゲノム工学の最新技術に生じる固有のモザイク現象を考慮し、CCR5の機能的なコピーと障害のあるCCR5のコピーも持ち合わせるようにしたと述べている。

 

具体的には、既知のCCR5-Δ32変異を導入するのではなく、CCR5タンパク質を完全に機能しないようにすることを目的としたフレームシフト変異を導入したという。ウイルスが免疫細胞に関するときに足場として使う細胞のタンパク質ができなくなるように、その遺伝子を機能不全にしようとしたのだ。

 

しかしこれまでの研究で、このCCR5 Δ32変異を持つ人は、HIVに感染しづらいが、ウエストナイル熱ウイルスなど他のウイルスに感染するリスクやインフルエンザなど特定の感染症にかかるリスクが高いことも示唆されていた。

 

最新の調査では、ルルとナナは、自然発生したCCR5変異遺伝子とは異なるまったく新しいCCR5遺伝子があった。通常、赤ちゃんは両親から受け継いだ2つの遺伝子を持っているが、それらは均一に編集されていなかった。ナナは誤って1つの特殊な塩基対が追加され、もう1つの塩基対は4つ削除されていた。一方、ルルは15個の塩基対が誤って削除されたコピーと、まったく変化のないコピーを受け継いでいた。

 

これらのCCR5タンパク質はこれまで見たことがなく、どんな機能かもわからない。つまり、賀の実験は新しい突然変異を発明することになったという。

 

また、他の問題として賀のしたことは、有効性は確認のしようがなかった。深刻な遺伝性疾患の“治療”を狙ったものであれば、生まれてきた赤ちゃんにその症状が現れるかどうかで有効性を見きわめることができるが、賀のケースでは、赤ちゃんがHIVに感染しないかどうかとなる。それは確かめようがなかった。

 

その後、CCR5の代わりに別の受容体を使用するHIVがあり、彼が行った研究では、結果的に子供たちをそのようなHIVから守ることはできないことがわかった

 

また、CCR5が自然欠落している人々は脳卒中から早く回復し、マウスにおいては学習能力や記憶力が向上するらしく、日常の知性における役割の可能性を示唆している。現在のところCCR5に変異がある人は頭が良いと言う報告はないが、賀はHIV予防のほかにCCR5の欠落による脳強化を試みた疑いがある。

調査


南部科学技術大学は、賀が2018年2月から無給休暇を取っており、彼の研究は学外で行われていたと述べている。大学と彼の学部は、研究プロジェクトについて知らなかったと述べ、国際的な専門家を招いて独立委員会を作り、事件を調査し、その結果を公開すると述べた。現地当局や中国政府も調査を開始した。

 

ライス大学の博士課程の指導教官であるマイケル・W・ディームは、臨床実験に関与して、研究対象者の同意に立ち会っていた。ディームは、この研究のニュースが公表された後、ライス大学の調査を受けている。

 

2018年12月28日に報道されたニュースの時点では、賀は大学のアパートに隔離され、ガードされていた。

 

2019年1月7日に報道されたニュースによると、彼は厳しい処置に直面する可能性があるという。

 

2019年2月25日、中国政府がCRISPRベビー実験の資金を少なくとも一部は支援していた可能性を示唆するニュースが報じられた。