遺伝子組み換え昆虫「害虫駆除を目的に作られた人工昆虫」

遺伝子組み換え昆虫 / Genetically modified insect

害虫駆除を目的に作られた人工昆虫


遺伝子組み換えの研究によく使われるショウジョウバエ
遺伝子組み換えの研究によく使われるショウジョウバエ

概要


遺伝子組み換え(GM)昆虫とは、突然変異や、より精密なプロセスである遺伝子送達、シスジェネシスによって、遺伝子を組み換えた昆虫のこと。

 

GM昆虫を作成する動機は、生物学的研究目的遺伝的害虫管理などが挙げられる。

 

遺伝的害虫管理は、バイオテクノロジーと配列が明らかになったゲノムのレパートリーを利用して、昆虫を含む害虫集団を駆除することを目的としている。

 

昆虫のゲノムは、NCBIなどの遺伝子データベースや、FlyBase、VectorBase、BeetleBaseなどの昆虫に特化したデータベースで検索することができる。

 

2011年から始まった「i5k」と呼ばれる5,000種の昆虫やその他の節足動物のゲノムを配列する活動が進行中である。

 

一部の鱗翅目(オオカバマダラやカイコなど)は、スズメバチのブラコウイルスによって自然界で遺伝子組み換えが行われている。

GM昆虫の放出実験


OX513A GEのオス(左)とメス(右)
OX513A GEのオス(左)とメス(右)

2015年7月に、オキシテックは、デング熱、チクングニア熱、およびジカウイルスから予防するため、遺伝子組み換え蚊をブラジルのジュアゼイロ地域で放出テストを行った。蚊の個体数が約95%減少したと発表された。

 

2016年1月、ジカウイルスの発生に対応して、ブラジルの国家バイオセーフティ委員会が、より遺伝子組み換えされたネッタイシマカの全国への放出を承認したことが発表された。

 

2021年、米フロリダ州のリゾート地で、遺伝子改変した蚊2000万匹を野外に放つ実験が進められている。デング熱の感染症を媒介するネッタイシマカの駆除が目的である。

 

実験は5月、同州南端のキーズ諸島で始まり、オスの蚊の卵が大量に入った箱が設置された。卵は英バイオ企業オキシテック社が遺伝子改変している。黄熱、デング熱、ジカウイルス感染症、チクングニア熱を媒介するネッタイシマカの遺伝子を組み換え、優性致死遺伝子を持つ雄の蚊「OX513A」を作出した。

 

自然界のネッタイシマカのメスと「OX513A」のオスとの交尾により生まれてくる幼虫のうち、メスは遺伝子操作によって生殖機能を持つ前に死亡する。オスは成虫になるが、次世代に致死遺伝子が引き継がれるため、メスが増えずに蚊の数が減り続ける。

 

「OX513A」のメスと自然界のネッタイシマカのオスの幼虫は、人工合成した「致死遺伝子」が働いて幼虫のうちに死ぬ。ネッタイシマカの遺伝子に影響を与えず、個体数を減少できるという。「OX513A」との交尾によって生まれた子どもが成虫まで生存する割合は、実験室条件下で3〜4%だ。

 

 

同社によると、過去に野外放出した実験では、ブラジルで最大95%、英領ケイマン諸島で8割の蚊を減らすことに成功したという。遺伝子組み換えされた『OX513A』と自然界のネッタイシマカとの交配によるヒトへの健康リスクは確認されていない

 

同社は「世界各地で約10億匹を放出したが、人や生態系への影響はなかった」と主張する。


■参考文献

https://en.wikipedia.org/wiki/Genetically_modified_insect、2021年9月11日アクセス

https://www.yomiuri.co.jp/science/20210904-OYT1T50151/、2021年9月11日アクセス

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/09/post-13019.php、2021年9月11日アクセス