平成28年度 第40回 東京五美術大学連合卒業・修了制作展

平成28年度 第40回 東京五美術大学連合卒業・修了制作展


2017年2月23日から3月5日まで東京国立新美術館で「平成28年度第40回東京五美術大学連合卒業・修了制作展」が開催されています。

 

通称"五美大展"と呼ばれるこの展覧会は、東京にある5つの美大(武蔵野美術大学、多摩美術大学、女子美術大学、東京造形大学、日本大学芸術学部)の卒業制作作品がまとめて展示されます。遠い場所にある美大に一つ一つ通うことなく、効率的に卒業制作を観賞できるのが最大の特徴です。

 

ただし、展示される作品はファイン・アート(絵画、彫刻、版画)の学部に絞られており、デザイン系や映像の卒業制作作品は展示されません。

 

今回個人的に気になった作品と生徒名を記録します。

ファン・ジス(Jisoo HWANG / 黄 之洙)/「美術大戦Ⅱ」



多摩美術大学 美術研究科 絵画学科 油画研究領域のファン・ジス(Jisoo HWANG / 黄 之洙)さんの「美術大戦Ⅱ」。

 

最も印象深かった人です。自分、エロス、タナトス、美術史、現代の表象を1つの空間にすべて詰め込んでいてよかったです。ほとんど脳みその中をぶちまけたかんじですね。それでいて、抽象的な空間やエッシャーのような迷宮的建築空間の要素と最近のゲームでよく見かける部屋デザインを融合したような表現も数多く見られ、建築系の人やゲーム好きの人が見ると楽しいかもしれませんね。

 

あとで調べてみると、韓国の留学生の方で、2016年1月9日から1月16日まで、ギャラリーQで二人展を開催していました。

黄之洙 + 金茂華 「Post Generation in Korea」

ギャラリーQ展示特設ページ

 

当時の展示の様子はこちらのブログを参照

 

展示概要
二人が生まれた時期は韓国で日本のサブ・カルチャーが多く紹介された時期でもあります。サブ・カルチャーのサブは本来、補欠や下位という意味合いでした。むしろメイン・ストリームから外されたもの、しかし今日のサブ・カルチャーはすでにアッパー・カルチャー(上位)へと変化し、時代を動かす巨大な産業とまでなりました。こうした意味合いからも韓国生まれの二人がどのような次世代へメッセージを投げかけるか、次世代(Post generation)からの韓国からのメッセージとして2016年度の最初の展覧会を企画いたしましたので是非お越しください。

 

やらわかな秘密 / 成元遥


「やわらかな秘密」は、日本大学芸術学部の成元遥さんの作品です。表現主義風の筆致で描かれた黒っぽい姿の女性と全身白いローブの姿の人のポートレイト。どこか人の無意識に眠っていて、夢に現れたことがありそうなやや不気味なイメージです。小西紀行さんのポートレイトに近い雰囲気もあり。

柴田真実 / 都市の錬金術


「都市の錬金術」は多摩美術大学の柴田真実さんの作品。日本画です。"錬金術"というシュルレアリスムでよく使われる単語がタイトルに入っている点から考えて、おそらくジョルジョ・デ・キリコの影響が強く感じられます。

 

なかでも、巨大な建物光と影のコントラスト地平線まで永遠に続く道どこか不安な佇まいを感じる青年(特に画面右の暗い建物内にいる青年が不安な心理を表している気がします)などの構成要素は、「通りの神秘と憂鬱」を基盤にして制作しているのではないでしょうか。

三輪彩音 / 纏う温度


「纏う温度」は、多摩美術大学の三輪彩音さんの作品。日本画です。いわゆる耽美系なのでしょうが、それに反発するかの洋画のような激しい大胆な色使いと筆致が印象的でした。「山種美術館 日本画アワード 2016 ー未来をになう日本画新世代ー」で賞も受賞しています。

小松佑 / Fishing Light Pillar(漁火光柱)


Fishing Light Pillar(漁火光柱)は、多摩美術大学の小松佑さんの作品。油彩です。工藤麻紀子や下出和美の抽象表現主義の流れを組んでそう。プレートのところに担当教員として中村一美日高理恵子と書かれていたので、その影響もあるだろうと思います。 

小池有乃 / 月を飲んだへびの話


「月を飲んだへびの話」は、多摩美術大学の小池有乃さんの作品。油彩。幻想的また童話的な絵柄とアール・ヌーヴォービオモーフィズム的な有機的模様がうまくミックスされていてよかったです。技術もかなり高め。

阿部智子 / 聯/断 triage


「聯/断 triage」は、東京造形大学の阿部智子さんの作品。4枚のペン画作品から構成されている巨大作品。ペンだけでなく、サンカラー、バインダー、糸、媒染剤、薄綿布などさまざまなメディウムを使用していました。少女、日本人形、しゃぼん玉などノスタルジーを感じるモチーフ群をモノクロームでやや表現主義的に描かれ、懐かしくも退廃的な雰囲気が出ていました。